2019/12/04 11:30

「24rhythm」は、しなやかに自分らしく生きる女性たちを応援しています。
難病による障がいをもちながら仕事に就きジムにも通い、12月に「ホノルルマラソン10Kラン&ウォーク」にトライする高橋由香さん。ALS(筋萎縮性側索硬化症)との診断を受けた彼女が選んだ、人生の新しい軸と目標とは…?(前編はこちらから


やりたいことよりも、やれること


再就職を考えるにあたって高橋さんが定めた軸は、地に足が着いたものでした。自分がやりたいことよりやれること。できれば福利厚生が整っている企業であること。2年もブランクがあるのだから守られた環境から始めようと考えたのです。

採用されたのは地元の大手地方銀行。前職で得たスキルを駆使して事務管理や業務改善などさまざまな業務に従事しました。システム導入から運用まで携り、気づけば部内で最も文書管理に詳しくなるなど業務の幅も広がりました。

「ところが、入社4年目あたりから私の中でまた何かが少しづつ変わり始めたのです。

病気になる前の私はキャリア志向に乏しく、ただ毎日を楽しく過ごせればいいと思っていました。でも発症後に再就職をしてからは、業務や責任が年々増すにも関わらず障害者雇用枠の自分には昇給も昇格もないという現実にモチベーションが下がってしまい、辞めたい気持ちでモヤモヤするようになったのです。

そんなとき、東京で障がいをもつ女性向けのフリーペーパーがつくられていることを知り、紙面制作のボランティアに参加してみました。活動を通じて数多くの障がい当事者の方々と出会い、また東京に通うようになったことで地方と東京の障害者雇用の格差も目の当たりにするようになりました。そして次に転職するなら絶対に東京で働きたいという気持ちが強くなっていったのです」

親を説得して東京で働き自活する生活へ

“今度は自分がやりがいを感じられる仕事を”と思うものの、そこからいざ転職するまでにさらに4年かかったと振り返る高橋さん。

「心配する両親を説得できるような、自分が本当にやりたいと思える仕事がみつかるまでは安易に動くべきではないと考えたからです。そんな中、2017年の夏に友人から“オリンピックやパラリンピックのボランティアに関連する団体で職員を募集しているらしい”と聞き、“これかもしれない!”とテンションが上がりました。

実はその前年、大学病院の診察で私に新たな病名がくだされていました。ALS(筋萎縮性側索硬化症)です。でも、私は根っからのスポーツ好きなのでオリンピックも大好きです。趣味が高じて車いすラグビーの試合を追いかけてもいました。自分の気持ちはすぐ固まって、両親もこれなら納得してくれるだろうと思い、時間をかけて話をしました。9月に採用が決まって10月に地方銀行を辞めて上京し、11月から晴れて勤務をスタート。ボラサポでの私の仕事は「東京2020大会」における障がい者のボランティア参加の促進です。それを柱にさまざまな業務を担っています。

具体的には、ボランティアに応募された視覚に障がいのある方たちのスポーツボランティアの経験値を上げたり、一緒に活動する健常者の“障がいに対する理解の促進”を目指して活動しています。いちばんのミッションは“彼らが支えられる存在であるだけでなく、実は支える立場にもなれる”ということを世の中に広めることかもしれません」


運動と並行して食事管理を実行。“栄養コンシェルジュ®”資格にも関心がわいてきたという高橋さん。


今年の個人的な目標は「ホノルルマラソン」10kmランを完走すること


大きなミッションを抱えて東京でのひとり暮らしも頑張る日々を送りながら、今年1月、高橋さんは新しい目標を掲げました。

それは12月に「ホノルルマラソン10Kラン&ウォーク」に挑戦すること。ただでさえ仕事と日常生活とトレーニングのバランスをとることが難しい状況の中、なぜ新しい挑戦をするのか尋ねてみると?

「トレーニングを始める前は歩くこともおぼつかなくて日常生活を送るのが精一杯でした。でも指導を受けて継続してみたら“やれば自分の体もこんなに変わる!”と手応えが感じられ、運動の重要性を実感しました。

トレーナーの方には体の機能を引き出すメニューをリクエストしているのですが、何か明確な目標もあったほうがいいと考え“10kmラン”への参加を決めました。今は毎朝1時間ウォーキングをして、週3日はジムで2時間、体幹トレーニングやむくみ解消の筋膜リリースを行い体を整えています。

病気になって障がいが出ても、私のスポーツ熱は変わりません。今年はホノルルマラソンでしたが、来年はまた何か別の運動にチャレンジしたいと思っています。1年にひとつづつ、スタンプラリーみたいにトライできたらいいですね」

睡眠不足や疲労の蓄積による体調の微妙な浮き沈みには時差出勤制度を活用して対応しながら、スポーツを軸に自分らしい人生を目指す高橋さん。最後にこんな話をしてくれました。

「“障害や難病をどうやって乗り越えましたか? 受け入れましたか?”とよく聞かれます。でもまったく乗り越えていないし、受け入れてもいないんです。だって今の社会で生きるなら、障害はないに越したことはありませんよね。

もし私がポジティブに見えるとしたら、“自分が楽しむために、一生懸命ベストな選択を考え抜いてきた”からじゃないかなと思っています。たまに選択を間違えてしまうこともありますし、もちろん病気のことでいまだに号泣することだって正直あります。人間ですから、そんなに簡単に答えは出せません。

それでもなんとか前を向いていけたら。そう願いながら、七転び八起きの起き上がりこぼしのような日々を送っています(笑)」


(写真左)仕事帰りにジムに行く日はトレーニングウェアや飲むサプリ入りのステンレスボトルを携帯。
(写真右)元銀行員なので指サックにこだわりあり。スワロフスキーのボールペンは気分を上げる仕事の必須アイテム。

構成・文/谷畑まゆみ
撮影/編集部